バグダード電池
追加情報
- 小辞典版推奨判定
- 「歴史+知性 目標値10〜12」
- やや詳しい情報 記録によれば、当初、高さ13cm〜15cm程度の土器の壷に、金属製の部品が組み合わさった状態で発見された、と伝えられている。
- 現在は、記録に記された状態では保存されていない。
- この遺物が、「宝飾品の部品に、電気メッキを施すために使用された古代電池だった」との解釈をはじめて公表したのはドイツの考古学者ウィルヘルム・ケーニッヒで、1938年に説を公表した。
- 現在の研究者の間では、「遺物は電池の類だったが、実用使用されたものではない」とする条件付電池説と、「関連する他の証拠がみつかるまで判断保留にすべき」とする判断保留説が主流、になっている。
- 「仮説として、実用利用された古代電池と仮定してみる」仮説を積極的に唱えている研究者もいる。
- 古代メソポタミアを専門分野にしている研究者で、広い意味での電池説を積極的に否認している研究者は、実はあまりいない。
- ただし、ケーニッヒが唱えた、電気メッキ実用説を肯定する研究者は少数派になっている。
- しばしば、超古代論を主張する文章で、「既存の歴史、考古学会は、バグダード電池が電池だったことを否認、ないしは無視している」かに主張される。この主張は、事実に反している。
- 学会で大筋否認されているのは、「金属メッキ作業の電源として実用使用された」とのケーニッヒ説だからだ。
- 小辞典版推奨判定
- 「歴史+知性 目標値12〜14」
- 詳しい情報 「バグダード電池」は、しばしば、「1936年に、バビル市(古代のバビロン遺跡近く)郊外の、ホイヤットラブヤ?の遺跡から発掘された」と、紹介されことが多い。
- 実は、これは未確認の情報だ。
- ケーニッヒ自身は、発掘の記録を公表してもいなければ、残してもいない。多くの研究者は、何者か(おそらくはイラク人)の手で、「ホイヤットラブヤ遺跡で見つけた」とイラク博物館に持ち込まれた遺物を、ケーニッヒが博物館内で見つけたのが1936年〜1938年と考えている。
- 1938年は、第2次世界大戦開戦の1年前だ。出土状況を問いただし、それに対してケーニッヒが応答する、といった、平時の学会なら通例おこなわれたはずの議論はなされなかった。ケーニッヒ説の学術的検討を、情勢が許さなかったのは、不幸なことだった。
- (ケーニッヒは、1940年にイラクからドイツへ帰国した、病気が原因と伝えられている)
- ともあれ、「ホイヤットラブヤ遺跡出土」とのケーニッヒの証言が伝聞だった可能性は、遺物の作製年代を検討するうえで、たいへん重要ポイントになっている。
- 仮に、伝聞の可能性を棚上げにして、ケーニッヒが証言した通りに、遺物がホイヤットラブヤ遺跡から出土した、と仮定してみよう。
- ホイヤットラブヤ遺跡は、確かに、パルティア時代に建造された都市の遺跡として知られるが、出土状況の記録がなければ、遺物をパルティア時代に遡る、と判定することはできない。より後代の物かもしれないし、より古い時代の物かもしれない。
- そこで、出土状況不明品として、この遺物を見ると、土器の製法やスタイルからは、ササン朝時代の物と鑑定されている。
- バグダード電池について、自然科学的な手法での年代測定は、2006年現在に至るまで施されたことはない。(自然科学的な年代測定法で最初に開発された炭素同位体年代測定法が、はじめて実用されたのは1970年代のこと)
- 遺物の作製年代は、よく紹介される紀元前2世紀頃の作製ではなく、紀元後5世紀〜6世紀頃の作製とみなすのが、現時点での学術判断になっている。
- なお、バグダード電池は、しばしば、「同型のものが1ダース〜20発掘されている」と紹介されることがある。これも、ケーニッヒが公表した論文に基づく未確認情報(正確には、確認不能情報)になっている。
- 現状で、公に所在が知られている遺物は、イラク博物館収蔵の1組だけである。
- この件に関しては、イラク博物館のバックヤード(収蔵庫)で、未整理の遺物の内に、まだ同型品が退蔵されている可能性を考えている研究者もいる。
- 小辞典版推奨判定
- 「歴史+知性 目標値14以上」
- 専門的知識情報 ケーニッヒが「実用電池説」を公表した論文によれば、バグダード電池は、長さ10cmほどの銅製のシリンダーと、同程度の長さの鉄製のバーとが、土器瓶の口に天然アスファルトで固定された状態で発見された。
- アスファルトは、土器瓶の封印蓋にもなっていた。
- 封印蓋は、シリンダーを瓶口の中心部に固定し、さらに鉄のバーがシリンダー断面の中央部に固定された状態が、ケーニッヒが発見したときの状態だったと言う。
- 構造を調査するために、ケーニッヒが遺物を分解したところ、内部、ことに鉄のバーに、丁度ワインか酢に長時間浸されていたかのような腐食の跡が見られた。(この腐食の跡は、現在も確認できる)
- 同様の構造の複製品に、例えばブドウ・ジュースのような、電解液の役割を果たす溶液を注ぐと、電流が発生する。複製を使った多くの実験では、概ね0.8V〜2V程度の電圧を持つ電流が、短期間発生することが確認されている。
- しかし、複製実験では、ケーニッヒ説のいくつかの欠点も明らかにされた――
- ケーニッヒ自身が記録したリンダーとバーがアスファルトの封印蓋で固定されている状態では、電流は短時間発生してすぐ途絶えてしまう。
化学反応に必要な酸素が供給されないためで、これではとても、鍍金作業の実用には使えない。 - 仮に何らかの方法で、封印蓋を使用せず、シリンダーとバーの配置を維持し、長時間電流を発生させた場合でも、鍍金作業に実用使用するには、複数の同型品を直列結合する必要がある。
しかし、結合に必要な電線の類は出土していない。
- さらに、決定的なことは、紀元前2世紀頃はもちろん、紀元後5世紀頃であっても、メソポタミア地域から発掘された宝飾品のメッキ技法は、水銀メッキのものばかりだ、と言うことだ。電気メッキを施された宝飾品は、現在のところ1点も発見されていない。
- 考古学的には、これが決定的な判断材料になっている。逆に、電気メッキで作製されたと正しく鑑定され得る遺物が、正確な発掘報告書を伴って、1つでも発掘されれば、ケーニッヒ説も盛り返すはずだ。
- 様々な証拠を総合し、現在の歴史、考古学会では、バグダード電池は「なんらかの宗教的なパフォーマンス」か、「魔術的な儀式」などに用いられていたのではないか(?)、との推測説が主流になっている。
- 変わったところでは、「呪術的な心療法に使われた」との推測説もある。
- いずれも、推測説だが、ケーニッヒ流の「メッキ実用説」も推測説であることは変わらない。
- 推測説同士の比較としては、「なんらかの宗教的なパフォーマンス」か、「魔術的な儀式」の方が、「メッキ実用説」よりも部がいい。
- 小辞典版推奨判定
- 「魔術/分析+直観 目標値14以上」
- 専門的知識情報 「『なんらかの宗教的なパフォーマンス』、『魔術的な儀式』、『呪術的な心療法に使われた』、俗人研究者が、何か具体的な予測があって言っているのか、極めて疑わしい。
- 中には、『神像の類の内に、電池瓶を潜ませ、電気ショックで信徒を脅かした』などと“推測”している研究者もいるようだ。果たして、0.5V〜2V程度の電圧で、ショックを覚えるものかどうか。疑わしいとは思わなのだろうか(?)。
- こうした、臆測(もちろん俗ウケする超古代説も含めてだ)が飛び交うのは、ひとえに、電池瓶が何の用途でどのように使われたか、記した古文書が一切知られていないためだ。
- むしろ、現状では、紀元後5世紀〜6世紀頃ササン朝時代の製作、との鑑定を重視するべきだろう。
- 大きな視野で見れば、後のイスラム圏で錬金術が勃興する前夜にあたる時期だ。バグダード電池が、実は電池などでなく、錬金術の実験器具だったとすれば、用途などを記した文書が発見されないでいることも、さして不思議ではあるまい」―― 結社をはぐれた魔術師
GM向け参考情報
- 小辞典版推奨判定
- ――
- おまけ 「ねえねえ、『バグダード電池』には、ちゃんとした年代測定しないの?」
- 「いや、遺物の形式による年代鑑定だって『ちゃんとした』鑑定ですよ。
- まあ、言いたいことはわかります。だって、イラク博物館は、今それどころじゃぁないでしょう。
- 年代測定だって、予算はかかりますし。やるんなら、はっきり言って、バグダード電池より優先的に鑑定されるべき遺物は山ほどあるんですよ(イラクに限ったことではないですけどね)」
- 「ふーん、、、。でもさ、見つかってから随分時間がたってるわけだし……」
- 「ああ。それはですね、ケーニッヒが『メッキ実用説』を公表してからすぐ第2次世界大戦になっちゃたでしょ。はっきり言うと、ケーニッヒ説も、バグダッド電池もしばらく、忘れられた存在になってたんです」
- 「なるほど。ね、財団は年代鑑定したことないのかしら?」
- 「……ここだけの話ですけどね、実はですね――」
用途、用法
バグダード電池は、「場違いな遺物」という意味ではオーパーツですし、用途不明と言う意味では、「ロスト・テクノロジー(遺失技術)」の産物とは言えます。しかし、超古代文明とは、直接関係しそうにありません。
当然、「ブルーローズ」のシナリオでは、どんな超古代文明と、どう関連付けるかが、料理のポイントになります。
いろいろ、考え方はあるでしょうが、「実は、やっぱりメッキに使われてた電池だった」では、ビックリしてくれるプレイヤーさん、あまり多くないような気がします。
あえて、ルールブックの限定情報から引用をしますが、バグダード電池のように、世間でもそれなりに知られたオーパーツを題材に使う場合は、「陰謀組織は、一般に語られる陰謀史観を隠れ蓑にし、その稚拙な論理をあざ笑っているのだ」(ルールブック、p.313)を参考にすることをお勧めしたいと思います。
上記引用箇所は「陰謀史観」に関する記述ですが、世間に流布している、トンデモ系の超古代文明論にもあてはめることができる考え方です。バグダッド・バッテリーについても、世間に流布している超古代説より、グッと地味な理解が、既に通説になりつつあります。トンデモ系の説は、いずれも、事実を誤認したものか、飛躍の多い無理のある論旨ばかりです。
だからこそ、シナリオ・メイクでは、通説よりも、トンデモ説よりもさらに奇想天外な“真相”を考えてみるアプローチが、1つの手になるのだと思われます。
さて、ローズ考古学財団が、フィクション内でバグダード電池の年代鑑定をしたらどうなるか? もちろん、GMが自由にフィクション設定していいのです。
- 学会の通説に反してやはりパルティア時代のものだった
- この場合、ササン朝風の土器が、なぜ、パルティア時代に作られた!? と学会は大騒ぎになります。キャストLev1の研究者は、頑として鑑定結果を認めないでしょう。
- 「さらに奇想天外な真相」としては、ササン朝時代に作られた土器が、古代シャドウ・ウォーに巻き込まれて、パルティア時代にタイム・スリップしたのかもしれません。あるいは、ササン朝時代まで生き延びた不老不死に近い神官がいて、パルティア時代に土器を作ったのかもしれません。
- 壷の真の用途は、壷の作者が、シュメール文明?やアトランティス文明?から学んだ断片的知識も基づいたものだったのでしょう。
- 「実はパルティア時代のものだった」ももちろん構わないのですが。この種のアプローチでは、できたら「財団が鑑定結果を世間に公表できない理由」も考えたいところです。財団自体は陰謀組織ではないので。理由もなく鑑定結果を非公開にするのは、学術財団の名に恥じるでしょう。
- 学会の通説通りササン朝時代のものだった
- 地味ですが、古代史ロマンに絡めてく展開では扱い易くなるでしょう。イスラム錬金術に知識を提供したペルシア錬金術や、エジプト錬金術の系譜、と設定する手は、定石の1つと言えると思います。
- 年代測定不能だ!?
- 裏技的な設定です。技術的な理由を設定して、現在の技術では、年代設定が不能、とするのは、かなり無理がありますが。フィクション設定としてはありかもしれません。
- 例え、ゾディアック・メンバーのマリアを投入しても、「判断不能、あるいは不明」という情報自体、意味がある情報なのです。
- さらに裏技的な設定としては、なんらかの縁故を持つキャラクターが年代測定をすると、その度に、Lev1キャラが測定したときとは、どうしても異なる測定値が計測されてしまう、という、現在の考古学に致命的な打撃を及ぼす(笑)設定もあります。
- この設定を用いた場合、常人とは異なる計測結果しかだせないキャラクターは、必然的に、普通の学会からは冷遇されざるを得ないでしょう。
アイディア・フック
- バグダード電池は、実は電池ではなかった。
実は、古代ペルシアの錬金術師がホムンクルスの類を作ろうとした実験器具だった。
アスファルトの封印がされていたのはそのためで、銅と鉄のパーツは、実験者がオーラを注ぎ込むための導管だった。 - バグダード電池は、実は電池ではなかった。
それは、古代ペルシアの錬金術師が錬金をおこなうための道具だった。
実は、今の考古学で、水銀メッキ製と鑑定されている宝飾品の内に、錬金術で作られた金銀も混じっているのだ。 - バグダード電池は、実は電池ではなかった。
実は、電気の精霊(?)を封印しておくための道具だった。
- バグダード電池は、実は高性能バッテリーだった。
実は、内に封印されていた溶液の方に秘密があったのだ。コントロールには縁故が必要だが、“正しい”溶液を混入すると、人1人を殺傷できるくらいの電撃を1回は放つことができた。
活用や検討
活用
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参照:[アイデア・フック]