かつてこの地上には幾人もの強大なヴォエヴォド(ダークエルフ・バンパイア)がいた。{{br}}  氷樹荒原と呼ばれた土地の鎮守であり、異界獣の主との異名をとったヴォエヴォド・ザビラスもその一員である。{{br}}  彼はその地方の夜の支配者であり、地下洞窟の中に育てられた木立に住まう亜神として永くその地方の人々に畏怖されてきた。{{br}} {{br}}  ある時、一人の神官戦士が彼の棲む地下洞窟を訪れた。{{br}}  神官戦士はザビラスに戦いを挑み、木の杭を構え彼の胸を狙って突撃した。{{br}}  ザビラスは嘲笑った。「なんと愚かな。神官ともあろうものがそのような俗信を頼るとは。木の杭などで吸血鬼を滅ぼせはしない」{{br}}  しかし、余裕を浮かべた彼の胸に杭が突き立った瞬間、ザビラスの全身の血は文字通りに凍りついた。{{br}}  実はこの神官戦士が用いた杭は事前に神の力によって強力に聖別された準祭器であり、ただの木の杭ではなかったのだ。{{br}}  ザビラスは胸に木の杭を突き刺されたまま仰向けに倒れて、永久にその動きを封じられた。{{br}}  彼の支配は、こうして終わりを告げた。{{br}} {{br}}  神官戦士はザビラスを滅ぼそうとすることで逆に彼に復活の機会を与えてしまう危険性を考慮し、その体を杭の突き立ったままその場に残して誰も入れぬように洞窟を封印すると、その地を去ったという。{{br}}  この勇敢なる英雄の名や、その後の彼の運命については知られていない。{{br}} {{br}}  長い年月がたった後、人々が一度中の様子を窺うために洞窟に入ってゆくと、ザビラスが倒れた木立の中に彼の姿は無かった。{{br}}  代わりに、彼の倒れたあたりには一本の禍々しい大樹が生えていた。{{br}}  その樹は灰のような病的な白色で、葉は一枚も無く、歪んだ骸骨の手のような枝を上に向かって伸ばしていたという。{{br}}  ザビラスの胸に突き刺された聖なる杭は彼の血を吸い上げ、地面に根を張って邪悪な樹に変わっていたのだ。{{br}}  その後、人々はその樹に手を出させないために、もう一度厳重に洞窟を封印した。{{br}} {{br}}  古代王国の支配の時代とその終焉の時を経て、この洞窟の所在は忘れ去られてしまった。{{br}} {{br}} 【註釈】{{br}}  伝承知識または全般知識で13以上で、この物語を知っています。{{br}}  18以上ならば真実も知っているでしょう。{{br}}  それについては、オーダー・オブ・デスの項目を参照してください。{{br}} {{br}} <発案者:ローレンシウ>