昔々、砂漠のオアシスにある小さな国に、一人の占い師がいました。{{br}}  名をミラージュ・サンドレイク。ミラージュは一日に一回しか占いをしなかったので、あまり儲かっているとはいえませんでしたが、その占いは百発百中、しだいに評判が広がっていきました。王様のお后がかかった病気を治す、珍しい薬草が生えている場所を言い当てたことから、砂漠で一番の占い師とも言われました。{{br}}{{br}}  ある日、砂漠の外からやってきた商人が、ミラージュに占いをしてもらいました。 そのおかげで、なくした大事な指輪を見つけることができたので、商人はお礼にミラージュを家に招きました。{{br}} 「どうしておまえの占いはそんなに当たるんだ?」{{br}} 宴の席で商人は問いましたが、ミラージュは微笑んで首を横に振るだけでした。{{br}}{{br}}  そのうち、商人はおかしなことに気付きました。どんなに香辛料をきかせた辛い辛い料理を食べても、どんなに胸につかえる甘い甘いお菓子を食べても、ミラージュは一滴も水を飲まないのです。不思議に思った商人は、こっそり女給に命じました。女給はうっかりつまづいたふりをして、持っていた水差しの水をミラージュにひっかけました。{{br}}  するとどうでしょう。{{br}}  まるでぐらぐら沸き立った熱湯をかけたように皮膚は赤く腫れ上がり、ミラージュはたいそう苦しみ始めたではありませんか。{{br}}  商人は、はっと以前 遊牧民から聞いた伝説を思い出しました。こいつは、ひとの願い事をかなえる不思議なちからをもつという砂の妖精『サミアド』に違いない、と。{{br}}{{br}}  ミラージュが水に弱いことを知った商人は、彼を捕まえて檻に閉じこめ、自分の故郷であるドレックノールという国へ連れ帰りました。そして石ころを金に変えさせたり、海賊の宝の隠し場所を探させたりして、あっというまに大金持ちになりました。いうことを聞かないと商人が水をかけていじめるので、ミラージュはどんどんやせて弱っていきました。{{br}}{{br}}  だれもが商人のことをうらやみ、ねたみました。やがていつしか、みんなが ミラージュを自分のものにしたいと考えるようになりました。人々はたくさんの戦士や暗殺者を雇い、商人もたくさんの戦士や暗殺者を雇いました。ミラージュを手に入れるために、ミラージュを奪われないために、人々は殺し合いました。{{br}}  どれほどの間、血みどろの争いが続いたでしょうか。{{br}}  人々がくたびれてへたりこんでいたその時、檻をこじ開けミラージュが逃げだしてしまいました。慌てて、疲れも忘れて 人々は追いかけ、オアシスの水際で取り囲みました。じりじりと追いつめ、さぁつかみかかろうとしたその時です。{{br}}  ミラージュは身を翻し、オアシスの中に飛び込んでしまったのです。{{br}}  ぶくぶくと泡だけを残して、その姿は水に溶けて消えてしまいました。{{br}}{{br}}  その後、商人はどうなったかというと。{{br}}  ミラージュを自分だけのものにするために、それまでいっぱい稼いだはずのお金はみんな使ってしまい、無くなっていました。{{br}} そして商売にも失敗してしまい、最後には部下に裏切られて殺されてしまったということです。{{br}} 人を苦しめて得た財産は、手には残らないというお話。 <発案者:ステイシス>