ねえママお話きかせて  いいわ可愛い子御本をもっておいで  いいえママそういうお話じゃないの『ほんとの』お話ききたいの  まぁ困った子それじゃどんなお話がいいの  えぇとね川の水はどうしてからくないの それはね川の水には涙が入っていないから  涙の話それは悲しい話 誰のお涙?  ──そうして語られたママのお話 むかしむかし 海の水がからくなかった頃 わたしたちのほかに住んでた人がいたの  それはカモメのような翼を持った人 わたしたちは海に住む人 でも彼らは空に住まう人なの メーラという女の子 そうねあなたくらいの女の子  その子は水面でぷかぷか いつも空を見ていた  まぁお空に住む人 背の羽なんて軽いの あぁ私の背中にも あんな羽が生えないかしら そしたら男の子が降ってきた そうねあなたくらいの男の子  そしたらどうしたのおかしいの  あんなに空に浮かぶ羽を なぜか重そうにもがくの  メーラはその子を抱き上げ 岩へと押し上げてやったの ありがとう海の人 ねぇ君はどうして溺れないの  そんなこと聞かれたものだから あたりまえのこと聞くものだから メーラは笑ってこう答えた  そうね私も鳥なの それも海の中を飛ぶ鳥なの そしたら男の子も笑った フィール男の子はそう名乗った 二人は仲良しになった  フィールあなたにまた会いたいわ でも大人たちはゆるさない  海の人と空の人 それはそれは仲が悪かったの  やれ半分サカナと やれ半分トリって言っては  どうしてか顔を見合わせては 石をぶつけ水を掛け合う仲だった 大人たちは話し合った そうして魔法使いが呼ばれた  海の底のような昏い眼 おびえるメーラにささやく  もうおまえは水面に出ることはない  フィール私こわいの フィール私をたすけて  メーラは力いっぱい逃げた フィールの待つ水面に 日の光が突き刺さる まるで無数の焼いた針 白い肌は赤く焼けた  それが呪いの鎖 それが暗い海底に縛る鎖  メーラはもがき苦しんで やがて水面から離れたの メーラは考えた ずっとずっと考えた 海のそこで一人 来る日も来る日も考えたの  そうだ夜なら暗いわ 海の底と同じくらい暗いわ  思いついたメーラ 夜を待って泳ぎだしたの 月の光はやさしい やさしくメーラを迎えた  その肌を焼くこともなく そっとメーラを抱いた  あぁ月の下でなら フィールと会える しかしその眼に映ったのは 月の光にしらじらと うかぶフィールの死体だった メーラは慌てて岩に押し上げた  ねぇフィール目を覚まして あの日のように 私に笑いかけてよ  けれどフィールは冷たく動かない 月の光と同じように 涙があふれでた 目を赤く赤くはらして 来る日も来る日も泣き続けた  子供達がなだめても 大人たちがたしなめても メーラの涙は止まらなかったの やがてメーラは ひからびて死んだ  後に残されたのは 涙のようにからい海  空に住まう人たちは こんな水は飲めないと 空の向こうに去ったの 海に住む人たちは 空を見上げてた そこには空を舞う人はない  いなくなってわかった あぁ私たちは焦がれてた  あの人たちを求めてた だから美しいあの人たちに嫉妬したの 海に住む人たちは 空を見上げて泣いた  そうして残された海は もっともっとからくなったの あたしはママのお話ききおえて 少しだけ泣いた  そうしてあたしの涙混じった海は もう少しだけからくなった  海には涙がとけてるの たくさんの涙がとけてたの <発案者:ステイシス>