{{toc}} !常識の世界 二度目の千年期を越えてもう十年近く。 人間の営みは、二千年前と全く変わっちゃいねえ。 狂奇の舞台となる世界は、おおむね現実と変わりません。世界の情勢はきな臭いものの、人々は普通に、幸せに生活し、平穏に回っています。 ただ、TVで流れるニュースには、常軌を逸した犯罪が多く見受けられるようになりました。人の心が荒んでいる、とコメンテーターは言っています。確かに、人々の心は歪み初めているのです。少しずつ、着実に。  その歪みが生んだもの。それが狂奇です。 !狂奇 炎を生む、肉を裂く、時を越える、闇に沈む。 下らない力よ。狂奇なんてのは。 狂奇の正式名称は狂乱性奇特能力症候群といいます。狂気がもたらす特殊な能力を持つ病気、というわけです。 狂奇の力の源。それは願う心です。こうなりたい、こうでありたい、こうでなければならない。そういった願望の力が、現実をねじ曲げ、塗り変えてしまうのです。 狂奇の力に、定型はありません。発症した当初こそ大まかな型に分かれているものの、願う心は狂奇を変異させ、独自のものに変えていきます。願いの数だけ狂奇があるといっても過言ではないでしょう。 !狂症者 決めた、あなたの病名! 狂乱性奇特能力症候群。略して狂奇でどう? さしずめあなたた、狂奇を発症した人間――狂症者って所ね。 狂奇を発症した人間を狂症者と呼びます。自らが病気であることを認めたくない者は狂奇遣いと呼ぶこともあります。 彼らの外見や職業に統一感はありません。学生から会社員、医者からホームレス。どんな人間も、強い願いさえ持てば狂症者になることができるのです。 狂症者の目的もまた様々です。自らの力に怯える者、逆に利用して利益を得ようとする者。力に飲まれてしまう者も多く居ます。その結果、一般人を傷つけてしまう狂症者も少なからず存在します。 しかし、一般人の間には狂症者の存在はほとんど知られていません。それには、狂症者たちが守る三つの掟が関係しています。 !常世の掟 あんたは掟を破った。 残念よーー処分させてもらうわ。 狂症者たちは、狂奇を使えない一般人を常識人と呼びます。彼らは弱いものの、常識を知り、なにより数が居ます。常識人が一斉に立ち上がれば、弱い狂症者などひとたまりもありません。 そのため、狂症者は常世の掟として三つの禁忌を定めています。 一 狂症者は常識人に手を加えてはならない。 二 狂症者は常識人へ正体を明かしてはならない。 三 上記二項を破る者は、狂症者の餌となる。 常識人に狂奇を使ったり自らの正体を明かすような行為をした狂症者は、餌、つまり他の狂症者からの殺害対象になります。狂症者の中には、戦闘的な力を持ち、それを持て余している者が多く居ます。彼らを自浄作用として使用するのがこの掟の真意です。 掟破りの結果として殺害された狂症者は、事故や自殺、あるいは行方不明として世間で認知されるように工作されます。 もっとも、近年ではこの掟も随分と効力を失っています。バレなければ良い、の精神で常識人に狂奇を使う狂症者は後を断たず、有力な狂症者たちも殺人などの後始末が難しい行為でなければ黙認する傾向にあります。ただ中には、掟を理由に狂症者たちを襲う強力な狂症者も存在します。 !シリータロー 占いよ。単なる占い。 でも、何事も経験でしょう? 狂症者の中で伝説として語られるのが「覗き屋」と呼ばれる占い師の話です。男とも女ともつかないその人物は、時空の狭間に鎮座し、迷い込んだ狂症者にアドバイスを与えるのです。 そこで用いられるのがシリータローと呼ばれる22枚のカードです。カードにはそれぞれ人の姿が描かれており、それは人間の役割を示しているのだと彼(彼女)は言います。 この世界で生きる全ての人間は、シリータローにより現されると覗き屋は言います。様々な出来事を経験し、成長した人間は、多くのシリータローの加護を得ていると。 覗き屋の言う事が真実だとは限りません。ですが、自身が神に比類する力を持った狂症者である覗き屋の言葉には、幾ばくかの真理が含まれているのでしょう。