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後藤亜細亜


後藤亜細亜

L:後藤亜細亜 = {
 t:名称 = 後藤亜細亜(ACE)
 t:要点 = 浅黒い肌,黒い髪
 t:周辺環境 = 後ほねっこ男爵領
 t:評価 = 全能力5
 t:特殊 = {
  *後藤亜細亜のACEカテゴリ = 逗留ACEとして扱う。
  *後藤亜細亜は後藤亜細亜を守ろうとする全部の存在のあらゆる判定に評価+2を与える。
  *後藤亜細亜が死亡するとアイドレスは終了し、バットエンドになる。
 }
 t:→次のアイドレス = 亜細亜の成長(イベント),磯貝みらの(ACE),トーゴ(ACE)
}


後藤亜細亜
後藤亜細亜(UP)
イラスト・南天

後藤亜細亜

 踏み込んだ世界は真っ暗だった。
 だから、この世界について後藤亜細亜が得た最初の情報は、匂いだった。

 かすかな、埃のような、なのに冴えきった匂い。
 雪の匂いと知ったのは、しばらく後のこと。
 次に届いたのは、頬骨と眉に刺すような冷気。そして、遠くから波のように届くざわめ
き。
 まだ目には何も見えない。
 
 少女はためらっていた。次の一歩を踏み出す勇気はなかった。

 寒さに身じろぎする。ブーツが雪殻(クラスト)をさく、と砕く。その音があんまり大
きくて、びくりと震えた。
 少女は、途方に暮れたのか、ひざを抱えてその場にうずくまる。夜の静寂が覆いかぶさ
って、泣く声すら押しひしぐ。しゃくりあげたら、自分が今ここにいることを示してしま
う。
 どれほどそうしていたのだろう。
 風は無く。自分の熱い呼吸のほかは何も聞こえない。だから、少しずつ嗚咽が収まって
くるのがよくわかった。

 戻るために、少女は立ち上がった。目じりの涙をミトンのままぬぐい、“ほう”と息を
つく。
 帰ろう、ここも違う。
 さびしくて、情けなくて空を見上げた。
 その時、初めて少女はこの世界を見た。

 星が天を埋め尽くしていた。
 クドリャフカ、タロ、ジロ、カヤ、ビリー。少女がわんわん帝国でこれらの星の名を知
るのは後のことだったが、それらの蒼白い光が瞬きもせずに、空に散らばっていた。

 世界は真っ暗ではなかった。暗くはあったが、真っ暗ではなかった。
 空には星の明かり、地には星を受けてほの白く雪明り。
 在ることを迫らない、居ることを咎めない。そんな光だった。

 マフラーを巻きなおし、少女は自分のいる場所を見渡した。
 山腹の林の中だった。葉の落ちた木々が茂り、真っ白な林床には一つの足跡も無い。

 どうしたら、いいんだろう。

 “暗いところでは灯りを探せ。分かるところが灯りなんだよ。”
 先生の言葉が、不意に思い出された。

 けど、空の星には届かないよ。
 翼だって、生えてない。
 勉強、足りなかったのかな。

 その時、一番近くの星がさやさやと流れ、少女の足元に下りたった。
 驚いて、息を呑む。4つのか細い光、いや、二組の翠色の光?

 リスの姿をしていた。けれど、その目は星の光を集めて輝き、耳は小刻みに震えて少女
には聞こえない音を捉えている。
 一匹が大胆に少女に駆け寄り、ちょこんと座ったまま、もの言いたげに頭をもたげる。
 もう一匹は雪の上を先導するように、駆け出す。そして、少し前のほうで尻尾を立てて
振り返る。
 その振る舞いに込められた、あきらかな意志に背中を押され、少女は歩き始めた。

 /*/

 XH−834は星見司である。
 正確には、後藤亜細亜が後ほねっこ男爵領を訪れたこの時期、まだ資格は取っていなか
ったが、弟メッケ岳天文台の責任者にして主の彼を藩民誰もが「星見司」と呼んだ。
 そして、この頃はまだ天文台は戦場となっていない。

 定例観測の解析処理をコンピュータに入力し、解析結果を待つ間。彼は天文台の外に出
て、雪の中に大の字に寝転がって星空を見上げた。部下の何人かがこれを試したが、毛皮
をつけていないものたちはもう少し暖かい方法が向いていた。
 大きく星を見る。
 詳しく、一つのことではなく、星空を見る。
 そして動きを見る。

 その耳が足音を捉えた。

 いぶかしく思い、身を起こす。小さく、息を呑むような悲鳴が聞こえた。そして、倒れ
る音。
 少女がそこにしりもちをついていた。

 /*/

 落ち着かせるのにはしばらくかかったが、愛鳴藩国、くぎゃ〜と鳴く犬閣下直伝のホッ
トミルクが功を奏した。
 ネコリスは天文台には入らず、外で胡桃をかじっている。
 ほねっこでは見ない、浅黒い肌、黒い髪。
 異国からの訪問者のようだった。
 ニ、三言葉を掛けるが答えははかばかしくない。
 ――犬の頭だからかなぁ。
 XH-834は、少し、困った。何より困ったのは、ネコリスに連れられてきたということの
意味をどうとるか、である。

 /*/

 若干、余談をはさむ。
 後ほねっこ男爵領、藩王の火足水極はネコリスに苦い思い出を持っている。
 作業中に、ネコリスが急な知らせを届けにきてくれたことが2回ほど、ある。
 そのネコリスを火足水極は“かざのさん”とか呼んだ。
 FEGにそう言う名前の吏族の方がいるが多分無関係であるだろう。そうでなかったら、
国際問題になるかもしれない。
 なんとなれば、藩王はこの“かざのさん”を“凶兆を告げる黒猫”呼ばわりしていたから
だ。
 その知らせのおかげで、藩国がどれほど助かったのかを考えれば、あぶらげ供えて手を
合わせてもよさそうなものだが、苦い思い出だけをしつこく覚えているあたり、器の大き
さが知れるというものである。
 まぁ、そういうわけで。
 後ほねっこ男爵領で、たぶん藩王だけがネコリスを苦手としており、XH−834はそのこ
とを人づてに聞いていた。

 /*/

 意味の無い出会いはない。
 彼女がこのほねっこを訪れたのにも、定命の存在には図りかねる理由があるのだろう。
 XH-834はランプを二つとり、火を入れた。自動観測装置の設定、バックアップ電源の確
認をする。
 天文台をあけることになるが、それは仕方ないだろう。いずれにしろ帰るのはもうしば
らくあとなのだ。

 少女はランプを手に取ると、問いかけるようにXH-834を見つめる。
 躍り上がりたいような、くすぐったいような心を星見司の理性で押し留め、それなりに
重々しく聞こえるようがんばって、XH−834は人里まで送ることを告げた。ここからは北
に下りて麦畑に出る。そこにいけば大きな道路があり、南天なりユーラなりを呼び出せる
だろう。

 道を知るXH-834が積もった雪を踏み、その後ろをネコリスにいざなわれて少女は行く。
 踏み開きながら、再度いくつか問いを投げかけるが、答えは無い。
 恐れられているから、心を許されてはいないから、ということはわかる。
 やがて交わす言葉も少なくなり、森のしじまを破るのはXH-834の荒い息と雪殻を踏む砕
く音だけとなった。

 これはいけない。そう考えた、XH−834は胸に暖め続けていた秘策を実行することに決
めた。
 天文台に3ヶ月缶詰になっていたver.0.7時代の星見司たちが、常に夢想していた秘策で
ある。彼は見晴らしのよい林の切れ目で足を止めた。

 少し距離を開けて、少女も足を止める。

 XH−834は空を仰いだ。
 つられるように、少女も空を仰ぐ。ネコリスたちも。
 星見司は空の一角を指し示す。放射点はそこだった。

 「……あ!」

 小さく少女は声を上げた。
 星が流れた、二度、三度。この日はバルト座流星群の極大に近い。少し多めに、流星が
多く見えるハズだった。
 少女は空を見上げ、多分初めて、笑った。

 /*/

 少女は後ほねっこ男爵領にやってきたその日に、泣いた。
 さびしくて、さびしいだけで何もできなかった自分が情けなくて、泣いた。

 けれど少女は、同じ日に笑った。
 夜空に灯る星を見て、その星の明かりが地上に満ちているのに気がついて、笑った。

 /*/

 後ほねっこ男爵領がボラーをはじめとするアラダに蹂躙されるのは、これからしばらく
後のことである。



後藤亜細亜

1.浅黒い肌
2.黒い髪
3.後ほねっこ男爵領

更新日時:2008/12/07 03:34:01
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