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吹雪先生

吹雪先生

吹雪先生(ACE)
要点・イエロージャンパー・ジーパン
周辺環境・よんた藩国
評価全能力11*
特殊吹雪先生は大剣士、銃兵、バトルメードとして見なし、これらの持つ全ての特殊が使える。
次のアイドレストーゴ(ACE)、吹雪先生の奥さん(ACE)

寮HQ継承第一世代より全能力+1


吹雪先生
吹雪先生(UP)
イラスト・南天

吹雪先生

吹雪先生

 見わたす限り、金色の波だった。
 その風景に見とれそうになったから、男は車を停めて外に出た。

 よんた藩国にすむものに、誇りとする風景を聞くと十中八九はその小麦畑を口にする。
 黄金の海はこの国に住む者たちの心の風景なのである。

 男は黄色いジャンパーのポケットからタバコのパッケージを取り出すと、慣れた手つき
で火をつけた。
 白い煙が穏やかな風に運ばれる、その風に麦の穂がそよぐ。
 高く青い空に目をやれば、猛禽が一羽、舞っている。尾羽の形と風切羽からすればオオ
ワシだろう。この風景の近くにあの猛禽が営巣するだけの自然環境が残っている証である。
 のどか、それを絵に描いたような風景だった。
 男は、メガネの奥で目を細める。
 麦の穂のあいまから、農作業機械のエンジンの音が近づいてくる。
 道を空ける必要があるかと、運転席のドアに手を掛け、男は動きを止めた。

 異質なものを視認した時、一瞬その認識の齟齬を修正しようと人間は努力する。が、こ
の風景の修正には少々時間がかかりそうだった。

 ヤドカリである。
 繰り返す。
 ヤドカリである。

 黄金の海である以上、ヤドカリがいてもおかしくない。そんな論理飛躍を検討せざるを
得ないくらいヤドカリだった。

 背中には赤い巻貝を背負い、巻貝と本体との間。背中に麦藁帽子をかぶった北国人が鼻
歌を歌っている。
 大きなヤドカリだった。

 近づいてくるので、あわてて車をどけようと男はキーをねじ込む。が、ヤドカリははさ
みを振ってその必要は無いと身振りで伝える。
 いや違う、ヤドカリが伝えたわけではなく、乗っている北国人が伝えたのだ。レバーを
操作して、軽く手を上げた。
 つまるところ、このヤドカリは機械だった。

 よんた藩国が誇る農業機械、ヤドカニオウ。
 鋏で麦を刈り、口部より取り入れて穂と茎を分離、小麦はヤドに収穫するというベスト
セラー農業機械である。

 ヤドカリはそのまま農道から畑に入り、小麦を刈りはじめた。というよりも、大きなヤ
ドカリが麦を貪り食っているようにしか見えない。
 のどかな秋の日を浴びて、ヤドカリが麦穂をむさぼり喰らう。
 異邦人が見れば、異様な風景でも、この国の民にとっては見慣れたなじみある風景であ
った。


 男は頭を振ると、車に戻った。
 よんた藩国の首都まではまだしばらくある。エンジンキーを回そうとしたその時、
 「ぐぅ」
 腹の虫が盛大に鳴いた。
 男は、車の灰皿にタバコを落とすと、助手席に放り込んだザックに手を入れた。
 中を探る、無い。
 ザックをひっくり返してみる。タバコが2箱転がり出る。思い返す。今朝寝ぼけ眼でむ
さぼったアレが最後のパンだった。

 落ち込む。

 無精ひげ生やした三十路男が腹が減って切ない思いをしていると言うのは、語るほうも
切なく、見るものはさらに情けない風情である。
 しかして、救いの神はいた。

「おじさん、どしたの?」

 毛糸の帽子をかぶった、北国人の少年だった。
 男は、顔を赤らめた。少女なら可憐だが、無精ひげの三(略)では情けない限りだ。
 男は近くに何か店は無いかと訪ねた。少年はぶんぶんと頭を振った。
 顔に落胆は出さなかったが、その分腹が正直に答えた。

 ぐう。

 少年は、にぱっ、と笑った。見透かされて男は照れた。

「お店なんか無いけど、よんた饅ならあるよ!」

 /*/

 男は少年の後を、ついて行く。
 少年は無造作に、小麦畑の中の農家に駆け込んでゆく。そして、男に向かってぶんぶん
と腕を振った。
 玄関先に4つほど、生地で包んで焼き上げた料理があった。
 異邦人の戸惑う表情を、少年は料理のことと勘違いした。
「お店で売ってるのはあったかいほうでしょ、こっちの“固い方”がふつーなんだよ!」
 そういって、手をズボンの腿にこすり付けて綺麗にすると、玄関から叫ぶ。
「おねえさーん、1つ貰うよー!」
 そして満面の笑みで一つをぱくりとやる。香草と煮込まれた肉のいい匂いが鼻腔をくす
ぐる。

 ぐぎゅるるる、る。

 もはや腹の虫というよりもうなり声だ。
 少年を見習って、くたびれきったジーパンで手をこすると、男は“固いよんた饅”に手
を伸ばす。その手をじっと、少年が見ている。一瞬手を止め、そして自分がかつて低学年
を教えたことのことを思い出した。

「すみませーん、一ついただきまーす!」
「……お姉さんって言わなきゃ駄目なんだよ」
 少年がジト目で訴える。
「いただきまーす、お……」
 言いかけたその時、奥から返事が返ってきた。
「はいはい、存分におあがりなさい」
 エプロン姿の、老婦人である。
「奥方様……」
「はいはい。どうですか、ウチのは? 少し辛かったかしら?」
「いえ、そんなことは。とてもおいしいです」
「そう、それはよかった」
 老婦人は、にっこり微笑む。北国人の例に漏れず、美しく年を重ねた風情であった。
「でも、それじゃあなた、もてないわよ」

 咳き込む。

「おねーさん、っていうんだよ。“おくがたさま”じゃないよ」
 これは少年。
「ありがとう」
 これは婦人。
「勉強に……なりました」
 これは男。
「いくつになっても、女性には勉強させられます」
「女性がいくつであっても、男性は女性から学ぶことがあるし、それが足りることは無い
のよ」
 くすりとわらうと、婦人は残ったよんた饅を紙ナプキンに包んでくれたのだった。

 /*/

 この頃、男、吹雪先生はよんた藩国にいた。
 後ほねっこ男爵領に来るまでは、また別の話。

(この設定を書くに当たり、よんた藩王はじめよんた藩国の皆様に、大変お世話になりま
した。ここに、改めて御礼を申し上げます)


吹雪先生

1.イエロージャンパー
2.ジーパン
3.よんた藩国(ACE森が居るため、たんぽぽ)

更新日時:2009/10/25 12:29:39
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