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試作機デザイン案

試作機デザイン案

 
「やっぱ塗り替えましょうよ、主任!
 試作機って言ったらトリコロールカラーっすよ、トリコロールカラー!」
 
「液体水素なら山ほど用意してあるから、ちょっと頭冷やしてきなさい、君」
 
 〜三徹明けの会話〜
 
 
部下を仮眠室へと蹴りだすと、主任は改めて自らが開発した機体を見上げた。
不意に潤んだ目許を揉みほぐしながら思う。
 
なんて歪な機体。
 
申し訳程度の大きさの主翼、長く張り出した機首。
触れれば折れんばかりの細い機体に、
どちらが本体なのかと疑うような巨大なスクラムジェットエンジンが据えつけられている。
30mを超える巨体の内部機構の大部分を占めているのは、強力なレーザー発振器と着脱不能の大型増加燃料タンクだ。
それらを抜いてしまえば、がらんどうと言っても然程間違いではない。
管制によるオペレーティングを前提としているため、自前のレーダーは申し訳程度のものしか積んでおらず、
その代わりに通信系は最新鋭のものを装備していた。
カタログ上では、副兵装としてガンポッドを装備し、ミサイルも積載可能とあるが、
そんなものは上を騙くらかすための気休めに過ぎないと主任は思っている。
 
一応は、高高度と低軌道宇宙を主たるバトルフィールドとするという建前にはなってはいるものの、
大気圏内では、その速度ゆえに機動性など無きに等しく、大気圏外では、スクラムジェットエンジンの特性ゆえに、
加速も減速も方向転換も出来ず、慣性のままに真っ直ぐ移動していくことしか出来ない。
自力で離陸することすら出来ず、初期加速は使い捨てのロケットモーターによって行うことになっている。
もちろんまともに着陸できるはずもなく、任務終了後はエンジンを切って減速、
しかる後にパラシュートで着水するという、アポロ計画再びといった風情漂う帰還方法をとる事になっている。
 
普通に考えれば、とんでもない欠陥兵器だが、開発主任は、けしてそう考えてはいなかった。
歪に過ぎるが、それは欠陥ではない、と。
 
莫大な建造費と、兵器としてあまりにも歪な姿と引き換えに手に入れたのは、唯一つ。
惑星上の如何なる場所へでも1時間以内にたどり着くその速さ。
偵察も、ドッグファイトもこの機体にはできない。
その代わりに、この機体は、誰よりも早く戦場へたどり着き、
低軌道宇宙まで侵入した敵に致命的な一撃を見舞うことが出来る。
大気圏突入は、決して生易しいプロセスではない。
相対速度の差が、熱や衝撃となってあらゆる侵入者を拒む。
故に、敵の外装さえ破壊してしまえば、大気圏への降下を阻止することが出来る。
そのためのスクラムジェットエンジンであり、そのための大出力レーザーであり、そのための機体だった。
いわば超音速の移動砲台であって、それ以上やそれ以外を求められる筋合いなど、何処にもなかった。
 
主任は、再び試作機を見上げる。
そこにあるのは、相も変わらず歪で醜い機体だ。
だが、しかし、それは、それこそが、最速の矛にして、星を守る最後の盾。
夜明けを目指して飛ぶ夜の鳥。
何時の日か必ず、その力の全てを振り絞って、天下万民を守るだろう。
 
 
余談
 
「あー、軌道エレベータとか、オービタルリングがあれば、
 そこから地表に向かって降下することで初期加速が得られるんすけどねー」
 
「ない物ねだりしても仕方ないだろう。
 ロケットモーターじゃいまいち加速が良くないのは認めるが、ある物で我慢しなさい」
 
「せめて液体燃料ロケット……は、ダメっすね。
 出撃に時間が取られすぎちまう。
 あー、どっかの金満藩国が作ってくれないかなー、軌道エレベータ」
 
「君、そもそも降下阻止が主目的なのに、大気圏外にそんな重要な戦略目標を置いてたら意味が無いだろう」

「……あ゛」
 
 〜仮眠室で仮眠した部下との会話〜

更新日時:2008/04/29 20:18:10
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