!I=Dの改良:フェイクトモエリバー3の開発 「マッハ20は速度ではない。{{br}}  200kmは距離ではない。{{br}}  2000億は予算ではない」{{br}}  {{br}}  〜宇宙開発の厳しさを表現した格言〜{{br}}  {{br}}  {{br}} 「惑星上でも宇宙空間でも運用できるI=Dの開発?{{br}}  そうですね、まず500年ほど時間を頂いて、物理法則を覆すことから始めましょうか」{{br}}  {{br}}  〜開発主任のお言葉……額に青筋を立てながら〜{{br}}  {{br}}  {{br}} 天領共和国のテラ領域侵攻を前にして、帝國は、宇宙における安価な戦闘手段の調達の必要に迫られてた。{{br}} そこで白羽の矢が立ったのが、フェイクトモエリバー2である。{{br}} これを改修し、フェイクトモエリバー3とすることで、来るべき侵攻に備えようと言うのである。{{br}} 開発者をして狂気と言わしめたこの機体ならば、容易く空間戦闘に応用が可能だと思われていた。{{br}}  {{br}} だがしかし、その目論見はあまりにも脆く崩れ去る事になる。{{br}} 宇宙空間における戦闘とは、結局の所、一万〜数千kmを隔てた位置の探りあいである。{{br}} フェイクトモエリバー3のコンセプトはあくまでも惑星防衛であるため、{{br}} 相対速度が光速の1%を超えるような、高速度での会敵は想定していないものの、{{br}} それでも秒速数百kmで移動する目標を捕捉し、撃破出来なければ話にならない。{{br}} のんびりと牧歌的に行われる惑星上での戦闘とはわけが違うのだ。{{br}}  {{br}} まず、エンジンの見直しが図られた。{{br}} 従来のエンジンでは出力不足という理由から、核融合パルス推進への換装が行われ、{{br}} この時点で、地上での運用が絶望的になる。{{br}} 更に、宇宙空間での運用を考え、双発式から、中心軸に推力を集中できる単発式へと変更。{{br}} 同時にデッドウェイトと化した主翼が取り外され、{{br}} 空力学に考慮した美しい流線型の装甲は、真空中では無意味であると改修された。{{br}} 被弾の確率がもっとも高い前面部に装甲が集中しているその姿は、人によっては、酷く不恰好に見えるだろう。{{br}} その上、既存の武装は取り払われ、前面部の装甲板の隙間から、物干し竿の如き長大なレーザー砲が突き出している。{{br}} コックピットも全面改修が図られ、空母からの射出時、加速時のGに耐えられるよう、{{br}} パイロットは寝そべるような形で乗り込む事になった。{{br}} 唯一、作業用マニュピレータとして残された手足が、I=Dとしての面影を残している。{{br}}  {{br}} これで何とか天駆ける足と、相手を殴りつけるための腕は手に入れた。{{br}} 問題は、相手を睨みつけるための眼……センサーだった。{{br}} 通常、光学センサーによって目標の位置情報と速度を、赤外線センサーによって加減速を探知するのだが、{{br}} すでにブースターとレーザー発振器によって、推力に対する機体重量が限界一杯一杯であるフェイクトモエリバー3に、{{br}} これ以上嵩張るセンサーを載せる余裕などあるはずがなかった。{{br}} あくまで既存I=Dの改修で済ませようとする姿勢の限界が露呈した格好だが、単機での運用を諦め、{{br}} 空母との連携を前提とする――索敵系を空母に丸投げし、レーザー通信で情報をアップデートし続ける――ことで、これに対処した。{{br}} 皮肉にも、この事は同クラスのI=Dとは比べ物にならない射撃精度をフェイクトモエリバー3に付与する事になる。{{br}} とはいえ、空母が撃墜されると、その瞬間に空母と接続していた機体が全て無力化されるという事も意味し、{{br}} その点を危惧する関係者は多数居たが、フェイクトモエリバー2のフレームを流用する以上はどうにもならず、{{br}} 運用する際は、必ず空母艦隊を組織して、互いにバックアップする事が原則とされた。{{br}}  {{br}} 突貫で宇宙機へと改修を施した本機は、決して優秀と言える機体ではないものの、最低限必要な性能を備え、{{br}} 数的優位さえ確立できれば、天領共和国の侵攻意図を挫くには十分な性能を有していると考えられていた。{{br}} 問題は、ただでさえ数が少ないフェイクトモエリバー2の改修機である本機を、{{br}} 開戦までの間に何機用意することができるか、その一点にあった。{{br}}  {{br}} 戦争は、すでに始まっている。