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ほねっこ男爵領 - WorldGuidance 差分

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!国設定[大分改易改訂版]
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○ほねっこ男爵領(改易後)概要

 先の戦以降、滋賀から大分へと改易されたほねっこ男爵領は、移動先の地形を生かしつ
つ、迅速に藩国としての体制を整えつつあった。
 移転先は海岸に程近い盆地であった。北には2つの山塊(シッペイ岳、早太郎岳)を望
む・その2つの山々からは「犬走川」が、冷たく清冽な雪解け水を湖に運んできた。その
湖は鳴駒の湖程の大きさはなかったが、民はこの湖に滋賀の鳴駒の湖を思い出し、「淵駒
の湖」と名づけた。そして、そのほとりに新たな城市を立てたのである。

○北の盆地、行政の中心
 新たなほねっこ男爵領は、大きくわけて2つのエリアに分けられる。
 すなわち「山里」と呼ばれる北部の山岳+盆地のエリアと「海里」と呼ばれる海岸の工
業地帯である。
 山里の中心は淵駒の湖でありその傍らにある新・ほねっこ城市である。盆地は城市と湖
以外は灌漑の施された小麦畑となっており、「畑の中にある首都」と時たま揶揄されたが
藩民にとってはこれこそが誇りであった。国の基本は農業であることを彼らは良く知って
いた。
 ほねっこ城市は、淵駒の湖から流れる河を背にし、それ以外の三方を城壁に囲まれた城
塞都市であると同時に、河の流れを市中に引き込むことで、水路として活用している水郷
都市でもある。
 市内には、政庁、病院、劇場、商店街、学校など、生活に必要な施設は一通りそろって
おり、また、冬季を見越して豪雪対策はしっかりと執られているため、生活の快適性は意
外に高い。
 とはいえ、この兎に角一箇所に集まろうとする性質は、冬の行動範囲が非常に狭くなり
がちな北国ならではといえる。
 この性質が遺憾なく発揮されているのは、藩国立ほねっこ学園で、幼稚部・小等部・中
等部・高等部と一纏めになっている上に、特に高等部には、普通科のほかに、藩国の基幹
産業である農業を学ぶ農業科、六つ斑飛行場(かつては七つ斑)の整備士・パイロットだ
けでなく、広くエンジニアを輩出する航空科、星見司を育成する特別高等科、清く正しい
バトルメードとしてのあり方(ゆっくり歩くのがたしなみ)を教えるバトルメード科と、
実に多種多様な教育課程がある。
 もっとも、これは講師の数が少なく、複数の科を跨いで生徒を教えている講師の割合が
多い事も一つの原因となっているのだが。
 なお、ほねっこ学園には本校のほかに、航空科の実習を行うための六つ斑分校、コロの
里工業団地に暮らす児童が通うコロの里分校がある。

 政庁を中心とするほねっこ城市のメインストリートはほねっこ銀座と呼ばれている。
 滋賀のころに山で採れる宝石を、銀製装飾品として加工していた職人が軒を連ねていた
場所からその名を受け継ぎ、今なお工芸品としての技術・評判は高い。
 今でも、ほねっこ銀座といえば、高級宝飾品の代名詞となっているほどである。
(例えば、ほねっこ男爵領の上流階級(これには夏、避暑に訪れる藩国外の人々も含まれ
る)の御婦人方の間で、『ほねっこ銀座でしつらえていただく』といえば、宝飾品を買い
に行く事をさす、といった具合に)
 また、こういった人々を目当てに、帝國の一流ブランドや高級レストラン、エステなど
が、熾烈な生存競争を繰り広げている。改易後は一時、これらの高級店は撤退するかと思
われたが、復興支援の資産が流入するのを見て、将来の発展を期待し、少々の規模縮小は
あれども変わらず町並みに彩を添えた。
 一般庶民にはやや敷居の高い界隈ではあるが、休日などには精一杯おめかしして、銀ブ
ラと洒落込むカップルや夫婦の姿をよく目にする。この通りが復興のバロメータと言う藩
民も多い。最近では、こういった層を目当てに、高級感を保ちつつも、ややリーズナブル
な値段を前面に打ち出した店も出店し始めている。

○たてがみ峠と孫ヶ森
 海の里と山の里を隔てるのが、たてがみ峠である。交通の要衝であり、海岸からの侵攻
に対しては防御の要となる地形でもあるという、相反する目的を持った地形である。
 結局のところ、先の戦の教訓を生かし、山里への防御地形としての性能を第一に考えら
れ国道バイパス(新・ほねコロ街道)が一本という“細い喉首”となった。そのため、こ
の峠は一般車両の乗り入れが制限され(時間制)、山里と海里の行き来は公共手段による
のが一般的となった。
 また、孫ヶ森には数々の軍用防御構築物、倉庫などが配置されているが、詳しくは国防
機密に指定されている。とはいえ、ほねコロ街道の規模がSTOL機の滑走路を兼ねていると
いうのは公然の秘密となっている。
 このたてがみ峠を見下ろす位置にあるのが、新メッケ岳であり、新たな王犬舎と天文台
がそこに設置されている。王犬舎がここにあるのは山里と海里の両方をともに見守るため
だといわれている。
その姥ヶ森に、鳴駒の湖を間にして、相対するように建っているのが、王犬社の本宮である。
 冬季や緊急時を除き、王犬は通常ここに起居しているとされているが、市井の暮らしを
知るという方便の下、ほねっこ城市内の離宮を使うことも多いらしい。
 本宮は北方では珍しい総檜造の壮麗な神社建築様式に則って建築されており、観光名所
としても有名である。
 王犬社は緩やかに隆起する新メッケ岳丘陵地帯に抱かれるようにみえる。地元住民は、
この丘陵をさして、よく王犬社の裏山などというが、実はこの裏山は王犬社の一部で聖域
なのだそうだ。
 丘陵それ自体、王犬社と切り離せるものではなく、二つ併せて神聖で貴いのだと。

○ほねコロ街道とコロの里
 ほねっこ城市へと続く唯一の街道沿いの里は、旧藩のころから妙に犬が多い事でも有名
だ。
 諸説あるが、その昔、街道を歩く旅人相手に商売していた茶屋に、この里と同じコロと
いう名の賢い看板犬がおり、そのお陰で茶屋は商売が繁盛したため、それにあやかって今
でも犬を飼う家が多いとか。
 それに習ってか、南のコロの里工業団地では、各工場で王犬ならぬ工場犬が飼われてい
る。

 このコロに関しては、その賢さを讃える様々な逸話が残されている。
 その一つに、冬のさなか、病に倒れた飼い主を救った、というものがある。
 その話によると、コロは病に倒れた飼い主の助けるため、吹雪の中、街道を駆け上がり、
森を突き抜け、ほねっこ城市の医者の元に薬を受け取り向かい、そして矢のような疾さで、
飼い主の元に特効薬を届けたのだという。
 この国唯一の街道が、『ほねっこ街道』ではなく、『ほねコロ街道』なのは、このコロ
の忠勇を讃えてなのだとコロの里の住人は言うが、それはさすがに贔屓の引き倒しという
ものだろう。

 飼い犬が多いという事に関しては、もっと物騒な説もある。
 街道沿いにあるこの里は敵の侵攻に一番早く晒される事になる。
 故に平時より犬を飼い、変事のあった時は伝令犬として、ほねっこ城にいち早く情報を
伝えたとか。
 今でもこの話を真に受け、コロの里では軍用犬を育成しているのだという噂が絶えない。
 かつてはその噂は笑って否定されていたが、コロの里でアイドレスが作成されたり、ほ
ねコロ街道が国防の要となった今では、笑い事ではなくなったという意見が多い。


○海里、工業地帯
 開けた南部には小麦畑をはじめとする農作地が広がっている。
 新メッケ岳から流れ出る清流は畑を潤しながら、顎湾(あぎとわん)に流れ込むが、そ
こで旅人は必ず、河の傍に佇む時計塔を目にする事になる。
 初夏から秋にかけて、兎角日の長いこの国では、この時計塔の鐘の音が、農作地で働く
人々の作業時間の目安になっている。
 また、内部の機構を利用して、河の水を水路へ汲み上げる役目も担っているのだそうだ。
 この時計塔は通称を『働き者の塔』と言う。
 正に名は体を表すといったところだが、一つそれに関して面白い話がある。この『働き
者の塔』は、その時々で呼び名が変わるというのだ。
 具体的には、その時藩国一の働き者だと皆が認める人物の名を関して呼ばれるそうだ。
 当代の働き者は、財務尚書として帝國に出向した事もある『無量小路』とのこと。故に、
今この時計塔は『無量小路の塔』と呼び習わされている。

 やがて潮風薫るコロの里工業団地へといたる。
 かつては、昔ながらの農家の佇まいや、或いは農作業に使う道具を納めた納屋の連なる
牧歌的な風景が暫く続く場所であった。
 その風景だけは往時を保ちつつも、現在この地域は改造アイドレス「香車リバー」の生
産地となっている。
 個々の工場はシンボルとしての工場犬を庭先で飼いながら、最新鋭の国防兵器をオート
メーション・ラインを稼動させて作成している。
 海岸沿いには各種の実験場や、物資輸送の埠頭が配置され、顎湾はかつての七つ斑飛行
場並みに行き来の困難・頻繁な港となっている。

○六つ斑飛行場
 パイロットたちは新たな飛行場を使い、異口同音に言ったものである。
「七ツ斑に比べれば、潮風なんてたいしたことねぇな」と、それゆえ、斑が1つへって六
つ斑と呼ばれるようになったのである。

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!アイドレス工場・改
!!乗っているライン+工場で働く国民
[[乗っているライン+工場で働く国民|http://www1.cds.ne.jp/~m_ari/sien/siennote/data/IMG_000186.jpg]]

!!工場+工場地帯+工業に向いた地形
[[工場+工場地帯+工業に向いた地形|http://www1.cds.ne.jp/~m_ari/sien/siennote/data/IMG_000188.jpg]]

!!アイドレス工場・改
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急ピッチで改易が進められる中、同時に進められていた作業が、
アイドレス工場群の再建である。
ほねっこ男爵領には、ある意味不似合いな光景と言える。

ほねっこ男爵領は、基本的に牧歌的な――微温的と言うこともできる――
雰囲気の漂う藩国である。
藩国民の気質は、温和でどこかのんびりとしているし、
冬の寒さと雪に目を瞑れば、比較的過ごしやすい気候をしている。
働くべき時に働きさえすれば、食うに困る事は無く、
余暇を充分に楽しめる程度には余裕も出来る。
前述の寒さにしても、技術の進歩により、
昔ほど恐ろしいものではなくなった。
北国と言われて連想するような、荒々しい気質など育とう筈が無い。

そんな藩国だけに、今までの藩国経営にしても、
藩国民の福利厚生が最優先され、
軍事に関わる諸々は後回しにされる傾向があった。
そんなほねっこ男爵領にも、転機が訪れる……いや、訪れた。
アイドレス工場群の建設である。
不穏さをます国際情勢の中で、自らを守る盾の必要に迫られての決断だった。
アイドレス工場群の建設と、それに伴うトモエリバーの製造は、
概ね正しい選択だったといえる。
かねてよりほねっこ男爵領のパイロットたちの優秀さは、
近隣に聞こえるところだったし、何よりも“人”の少ないほねっこ男爵領において、
一機で数人分の戦力を賄える帝國の新型機トモエリバーは有り難いものだった。
たとえ一戦交えるたびに燃料と資源をバカ食いするにしても、だ。

そう、選択は正しかった。
正しいとか、正しくないとかのレベルではなく、
それ以外の選択肢がなかった、とも言える。
だが、選択をしないと言う選択肢もあったのだ。
座して死を待つという。

選択は正しかった。
それは間違いようの無い事実だ。
だが、それでもなお、ほねっこ男爵領は焦土と化した。
一藩国レベルで最善を尽くしても、止められなかった悲劇。

ほねっこ男爵領の最前線で、藩国を支えてきた誰もが打ちのめされた。
それは男爵代行を務める火足水極であり、
トモエリバーに乗った三人のパイロットであり、
整備のために足元を駆け回った整備士たちであり、
刻一刻と変わり続ける状況を指揮系統に上げ続ける中隊付き吏族たちであり、
根源力の多さから大隊長を務めることになった無量小路であり、
偵察に失敗した二人であった。
有体に言えば、この戦いに関わった者全てが何がしかの目に見えない傷を負った。
しかも、偵察の失敗、移動の遅れなどから、交戦・移動の妨害すら行えず、
丸裸のほねっこ男爵領を敵機動兵器に好きに蹂躙された。
挙句、リンクゲートの先に移動した敵を追ったものの、
接続先が海で海水浴をする羽目になる始末。
水中での使用を想定されていないとされる敵機動兵器への復讐は、
小笠原の海が果たしたものの、せめて自分達の手で、というのが、
ほねっこ男爵領に所属していた者たちの本音だっただろう。

かくて、初めての実戦は終わった。
戦後処理として、焼け野原の広がる旧ほねっこ男爵領から、新たな地へと改易され、
藩国としての形を整えるのに皆が東奔西走する中で、
まず最初にやった事が食糧生産地の確保、次がアイドレス工場群の建設だった。

それは戦力の拡充を目指すと共に、
もう二度とは故郷を焼かれはしないと言う、決意の表れだったのかもしれない。
だが、食糧生産地を眺めるそれとは違い、
完成したアイドレス工場を眺める眼差しは、一様に険しい。
それは力に頼る事の危険さを知っているからか。
大きすぎる力を抱えたがために、それを御しきれず、自滅した先人達は枚挙に暇が無い。
その事を知っていても、今はそれに頼らざるを得ない。
次の災厄に備えるために、次の次の災厄に備えるために。
いずれ一時の平和の訪れと共に、感謝の眼差しで見やる日が来るかもしれない。
だが、その日まで、決して隙を見せる訳には行かないのだ……己の内に潜む、
強者の驕りという名の獣には。

再建されたほねっこ男爵領アイドレス工場は、
旧工場とコンセプトという点でさほど変化があるわけではない。
周辺環境への配慮と、徹底したオートメーション化である。
前者に関しては、国土を愛するものとしての当たり前の配慮であり、
後者に関しては、人口の多いとはいえない男爵領として、どうしても必要といえる。
助成金が出るのを良い事に、可能な限り豪華な仕様である所も変わっていない。
人もまばらな工場内で、ガションガションとアイドレスが組み上がっていく様は、
なるほど壮観といえば壮観であろう。
コンセプトとは別に、今回、大きく変わったと言えるのが、研究施設の拡張だろう。
アイドレスの製造に絞っていた旧工場群とは違い、
実機のための(藩国の規模としては)かなり広々とした試験場、
複雑なシミュレータを走らせるのに充分以上の性能を誇る最新鋭のコンピュータ。
ただ仕様の通り製造するのみでなく、トモエリバーを進化させる……は言い過ぎだが、
最適化するための設備が揃っていると言える。

すでに、ほねっこ男爵領の戦いは始まっている。
アイドレス工場群の威容は、見る者にそんな事を語りかけてくるようにも見える。
次こそ、守って見せる、とも。
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!食糧生産地・改
!!生産地で働く国民
[[生産地で働く国民|http://www1.cds.ne.jp/~m_ari/sien/siennote/data/IMG_000187.jpg]]

!!食糧生産地
[[食糧生産地byユーラ|http://devil-of-vansisca.hp.infoseek.co.jp/seisanchi4.jpg]]

!!食糧生産地・改
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ほねっこ男爵領といえば、豊かな地の恵みである事は今も変わりない。
民を飢えさせない事に全力を注ぐこの国が、改易されてまず最初に始めたことは、
やはり食糧の確保だった。
荒地を開き、段落地を均し、驚くほどの手際のよさで開墾を終えると、
すぐさま幼苗育成のためのビニールハウスを建て、小麦の生育を始めた。
要はスピードだ、と男爵代行火足水極は言った。
だが、直後に、秋に収穫する小麦を育て始めるのにスピードも何もないでしょう、
と言われて即座に凹んでいる。
でもまあ、遅れるよりもずっと良いですよ。
男爵代行火足水極再起動。

感激屋で感動屋だったこの男爵代行は、
ちょっとしたことでよく落ち込んだが、その分、立ち直るのも早かった。

そうさそうさ、拙速は巧遅に勝る。
冬に飢える奴を出してからじゃ遅いんだ。

フォローを入れた藩国民の頭をかいぐりかいぐりすると、火足水極は胸を張った。
そうさ。この国を俺は何処に出しても恥ずかしくない立派な国にしてみせる。
妻に先立たれた子持ち夫のような事を考えながら、ここにほねっこ男爵領の再建が始まった。

春蒔き小麦の育成の条件には、土壌に充分な水分が保持されている事、
梅雨に雨の降りすぎない事、夏季に暑くなりすぎないことなどが挙げられる。
勿論、豊かな地味も欠かしてはならないものだ。
新たなほねっこ男爵領も、概ねこの条件を満たしており、
秋には、充分な収穫が見込まれる筈だった。
だがしかし、火足水極にしてみれば、充分な、程度の備蓄で終わらせるつもりはなかった。
冗談でもなんでもなく、三年は藩国に篭っても充分な量を育てるつもりだった。
何、低温で保存すれば小麦ほどもつ穀物はないんだから、余ったら売ればいいさ、わはは。
そう笑っていたが、目だけがびた一笑っちゃいない。
全てが焼き払われたあの日、あの時の機動兵器襲来のトラウマとも言える。

かなり綺麗さっぱり焼き払われた国土に心を痛め、
避難を優先させたにもかかわらず、出てしまった人的被害に打ちのめされ、
あれだけ心血を注いだパン工場のパンよりも、
愛鳴藩国のホットケーキの方を子供は喜んだ事に止めを刺された。
最後の一つは当たり前の事のような気もするし、
保存食を全部ホットケーキにしたら正気を疑われるだけだと思うのだが、
火足水極は心底傷ついた。
自分の満足のためだけに、子供の事を蔑ろにしたと責められた気がしたのだった。

やはり、何かに固定してはダメだ。
状況にフレキシブルに対応するためには、原料の形で大量に保持しなければ。
目をグルグルさせて考えた末の結論がそれだった。
粒のまま保管すれば、保存性もよくなるし、何より製粉すれば何にだって加工できる。
パンだって、ホットケーキだって、思いのままだ!
それに、それだけ多く作れば、今度はうちが何処かの手助けが出来るかもしれない。
愛鳴藩国の友誼が我が藩国の民に笑顔をもたらした様に。
代償行為といわば言え。
もはや火足水極にほねっこ男爵領民を泣かせるつもりも、
他の藩国の民を涙に暮れたままにするつもりもなかった。
貧乏藩国であることも、
帝國・共和国をひっくるめて下から数えた方が早いと言われる人材難も、
もはや何事も火足水極を止め得ない。

彼は、ちょっとした事で凹み、他人なら傷つく必要の無いところで自責をしたが、
立ち直りだけは早かった。
そして、立ち直ると、凹んでいた分を取り戻し、凌駕する勢いで働いた。
がむしゃらに、ひたむきに、時に周りが見えていないのではないかと言うぐらいに、熱心に。
もっとも、現在は少々暴走気味ではあるが。
何時もあのくらい熱心に働けばいいのに、と言う藩国民もいるが、
四六時中ああだったら、周りも本人も到底もたないというのが、部下たちの共通した思いだった。

その男爵代行の目の前で、今、滋賀から運んできた種籾が蒔かれる。
その種籾は、焼け跡の中、炎に炙られながらも生きる事を止めなかった。
恐らく、放っておけば、しぶとく生き残って春には芽吹き始めたであろう種籾だった。
男爵代行がこの時ばかりは厳かに告げる。

「今、我らは大地に希望を蒔く」
「この希望は、我らの故郷より受け継ぎし、力強き大地の恵み」
「我らの愚かさによって、故郷は失われたが、
 せめてこの恵みを受け継ぐ事で、故郷を偲ぼう」
「新たなる土地の、古き実りが、我らの血と肉にならん事を」

蒔かれた種は、初夏の太陽の下で育ち、夏には青々と実るだろう。
実りの秋を迎えれば、黄金色に色づき、天を差すようにまっすぐと育った小麦は、
地の恵みとして藩国の民の手に溢れるだろう。
大人たちは、その実りに感謝しつつ収穫し、まだ充分に働けない子供や、充分に働いた老人は、
僅かな恵みも無駄にはしまいと落穂拾いに精を出すだろう。
これだけ植えたのだから、きっと、収穫は藩国総出の大掛かりなものになるだろう。
収穫が終われば、お祭り騒ぎになるのではないか?
今年の芋煮は盛大なものになりそうだ。
マキオマイタケが無いのが残念だが、何、ここの山も色々採れるに違いない。
きっとこの国も、故郷と同じくらい素晴らしい国だろう。
いや、故郷以上に素晴らしい場所にしてみせる、我々の手によって。

それは果たされる事が決定付けられた約束。
この国の人々には、重荷にたわんでも折れない、穏やかな強さがあるのだから。
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○ほねっこ男爵領の四季

ほねっこ男爵領の四季は北方諸国の例に漏れず春から始まる。
春の訪れを盛大に祝い、冬との再会が少しでも遅れる事を願って行われる春の祝祭は、
領民総出で大騒ぎするのが習いであるが、その代わりのように、
暦の上での年末年始にはあまり重きを置かない。
何故なら、その時期は冬であり、ほねっこ男爵領にとって冬とは、
降り積もる雪の季節であり、延々と春を待つ、
長く白い日々の連なりを意味する言葉でしかないのだから。
(とはいえ、冬には冬の楽しみがある事もまた事実なのではあるが)

春の祝祭では、祝い歌にのせて、伝統衣装で着飾った少女たちが舞い、
食料庫を空にする勢いでご馳走が振舞われる。
実際、かつてはこの祭りを過ぎて倉庫に食材を残しておくのは、
度の過ぎた吝嗇だとみなされたという。
現代でもその傾向は残り、この祭りが終わると、
各家庭の冷蔵庫はたいがい空っぽになっている。
その際に忘れ去られた食材が発掘されると、大変恥ずかしいので、
ほねっこ男爵領の冷蔵庫は概ね整理整頓されているらしい。

それとほぼ同時期に、秋の収穫を祈りつつ、畑に鍬が入れられる。
やはり住人総出で行われるこの儀式は、
収穫如何で来年の祝祭の規模が決まるとあって、皆力が入る。

また、春は恋の季節でもある。
長く陰鬱な冬が終わり、生命の芽吹く季節。
一日一日と強く明るくなっていく太陽に、色を取り戻していく風景。
それを祝うが如く舞う乙女。
その軽く上気した頬に吸い寄せられない男は少ない(居ないとは言わない)
ほねっこ男爵領政府の厳正なる統計によると、
この時期のカポーの成立件数は、平均で他の季節の実に2倍を記録するという。

出会いと別れの季節でもある。
ほねっこ男爵領は諸藩国に比べ、国民に占める吏族の割合が高い。
そして、春は吏族の人事異動の季節でもある。
3ヶ月、メッケ岳山頂近くの天文台に閉じこもる事になる星見司だけでなく、
冬季になると家と職場を往復するので精一杯の生活になりがちな、
多くのほねっこ男爵領民にとって、職場を誰と共にするかは、
実に切実な問題なのだ。
この時期、領内に漂う緊張感を中々他国民に理解してもらえないのが、
領民のささやかな悩みであるらしい。

そんなこんなでドタバタしているうちに、季節は巡り、ほねっこ男爵領にも初夏が、
そして、短くも鮮烈な夏が訪れる。
(ドタバタの中には三ヶ月天文台に閉じこもっていた星見司が、
下界の感覚を中々取り戻せない所謂星見ボケも含まれる)

初夏には、ようやく雪が消え始めるメッケ岳の山開きや、河漁が解禁され、
市場には新鮮な山の幸、川の幸が溢れる。
羊毛の刈り入れも丁度この頃で、冬に備えて、また夏を楽しむためにも、
ほねっこ男爵領民はしゃかりきに働く。

そして、夏。
太陽が最も鮮やかに輝く季節。
短い夏を惜しむように、その熱を楽しむ。

この時期の領民は、日が中天に差し掛かったあたりからそわそわとし始め、
午後に入れば心ここに有らずという風体。
そして、終業のベルが鳴る時にはすでに帰り支度を終えている有様。

夕暮れにもなれば、そこかしこで日照の長さを利用してガーデンパーティが開かれ、
秘蔵のエールの樽を開ける音がしたかと思えば、大きな歌声が響き始め、
それに幾つもの声が和し、何処からか楽器まで持ち出して演奏をし始める。

ほねっこ男爵領の夏は、影もひりつくような日差しと、吹き通る涼風と、
何時までも続く気の置けない仲間との宴会で構成されていると言っても過言ではない。
ただ、夜を徹して馬鹿騒ぎをするという習慣はあまりないようだ。
みんな遊び疲れて休んでるのに騒ぐのは迷惑だし、
(ほねっこ男爵領の半分は良識で出来ています)
何よりも、寝ないで遊んでいたら、次の日の宴会に差し支えが出るじゃないか!
(ほねっこ男爵領のもう半分は非常識で出来ています)

この流れについていけない者も居る。
全体が均質な共同体など存在しない以上、当たり前の事である。
そういう者は、森に入って木を切るか、或いは山に入って石を探す。
石と言っても、ただの石ではない。
ほねっこ男爵領を取り囲む山には、有望な貴石の鉱脈があり、
それは雪の無くなる夏にのみ採掘が可能になる。
その貴石を採掘しに行く事を指して、山に入ると言う。

故にその昔、ほねっこ男爵領では、山師といえば、
真面目でこつこつと働く者の事を指したのだそうだ。

夏が終わりに近づくと、ほねっこ男爵領の結婚シーズンが到来する。
前述した春に始まる恋がどうなるのかは、この時期に概ね二分されるのだという。
一つ、夏の熱に炙られ、激しく燃え盛った後に燃え尽きる。
一つ、夏の熱に炙られ、互いに分かちあい難く焼結する。
後者が大挙して結婚するのが、この時期らしい。
そして、ほんの一瞬訪れる晩夏を彩る宴会のネタになる。
勿論、結婚しない者たちも多い。
ただ、この一山を乗り越えたカップルは、長続きをする傾向にあるそうだ。

晩夏の宴会は野外での芋煮会がメインとなる。
夏場の路地で栽培する頭芋は非常に実りがよく、手間もかからないのだが氷温に弱く、
冬を通しての保存には向かない。
そのため、倹約を強いられる冬の前に、思いっきり実りを味わうためにこの頭芋を野良作業の傍ら煮たのが始まりだ。
この芋煮会は同時に結婚するカップルが互いの親族に相手を紹介する絶好の機会ともなっており、
年頃の娘を持つ家の父親はこの頃落ち着かない(逆に片付いた親はいい気な物で痛飲する)。
この芋煮会に欠かせないのが、鍋の具ともなる香り高きマキオマイタケであり、
民はこぞって山に入り、おのおのの見つけた秘密の“しろ”からそのキノコを取ってくる。
“しろ”の位置は基本的に家族直伝であり、
「婿になっても、キノコ採りに連れて行ってもらえない」となれば、
まだ正式に家族に迎えられていないということでもある。

そして、かすかに風の中に混ざり始めた冬を、
共に耐える事が、この時期結婚する二人の、最初の試練となる。

初秋が訪れると、夏の狂乱が嘘のように、皆また働き始める。
夏を思い切り楽しんだ後は、冬に備えなければならない。
この辺りの切り替えの早さが、周辺地域において、
ほねっこ男爵領の領民は物凄い働き者か、
或いは物凄い怠け者かという両極端しか居ないと言われる所以であろう。

兎に角この時期は忙しい。
何しろ、冬の足は非情なまでに早い。
まだまだ遠いなどとのんびりしていては、あっという間に追いつかれてしまう。
まずは保存食作り。
河や鳴駒の湖で取れる豊富な川魚を干物にする。
沢山作る、兎に角作る、売るほど作る。
冬の間、たんぱく質は主にこの干物に頼る事になる。
そして、猟解禁。
秋は動物たちも厳しい冬に備えて、栄養を溜め込む季節。
すなわち、たらふく肥えて栄養価も高い。
これを見逃しているようでは、北国の厳しい冬を越せはしない。
ただ、やりすぎてはいけない。
獲れるだけ獲れば、今年の冬は越せるだろう、楽に。
しかし、来年は? 再来年は? その次は?
目先の利益だけを追う者も、また北国の厳しい冬を越せはしないのだ。

とはいえ、昔に比べれば随分楽になった、と古老は言う。
保存技術の進歩、輸送状況の改善。農業の革新。
秋の収穫の多寡が、そのまま冬の生き死に繋がる事は無くなった。
良い時代になった、と。

それでも、領民は必死で働く。
それが本能に刷り込まれた行動でもあるかのように。
統計によれば、この時期の作業効率は、
職種を問わず時間当たり5%は上昇するのだという。

そして、秋。収穫の季節を迎える。
春に蒔いた種籾は、順調に育てば、大きな実りとなって返ってくる。
その実りに感謝し、大地の恵みを刈り取る頃には、冬はもうすぐそばまで迫ってきている。
急き立てられるように収穫し、一息つく暇もなく、気がつけば冬に飲み込まれている。
それがほねっこ男爵領の冬の到来となる。

だが、それでも、全てが順調で、皆が全力で働いたなら、一握りの余裕が出来る。
その一握りは、食用にはあまり適さない大麦の栽培であったり、
ある種のハーブの栽培であったり、何処かで使い古されたシェリーの樽だったりする。

足の早い冬がほねっこ男爵領に訪れる頃、それはこっそり行われる。
別にこっそり行う必要は無いのだが、やっぱりこっそり行われる。
理由を聞いてみれば、その方が美味い物が作れる気がするから、
といたずらっ子のように領民は答える。

その方が美味い物が作れる気がするというそれこそが、
上面発酵方式の麦酒であるいわゆるエールと、
上質な大麦と清い水と大昔の悪党の知恵が作った命の水、
つまりは、ほねっこ男爵領が帝國に誇るシングルモルトウィスキー。

どちらも、領民の生活に無くてはならないものである。
特に、ウィスキーはあまりにも過酷な環境で冬を過ごす星見司にとって、
正しく命の水となる、という。
とはいえ、冬の冷え切った空気の中、夜空に冴え冴えと光る星を見ながらの一杯は格別で、
その魅力にとりつかれてしまう星見司も数多いとか。

閑話休題。

冬である。
北国の冬は、美しくも過酷だ。
雪は何もかもを白く染め上げ、その重みで何もかも押し潰そうとする。
寒さは容易に人を殺し、食料の不足も速やかな死を意味する。
だから、ほねっこ男爵領の領民は、皆頑丈な家の中で、暖を取りながら、
家族で身を寄せ合って、過ごす。
自分が働くべき時、充分に働いたと信じながら、
冬が少しでも早く過ぎ去る事を祈りながら……というのは、昔の話。
グローバル化の進む昨今、そんな事では藩国の経営が成り立たない。
科学技術の進歩は偉大だといえよう。
人々は、あれほど恐れた冬と程ほどに折り合っていく術を身につけている。

だから、冬場になっても政庁は閉鎖しないし、生活インフラはきちんと維持される。
主要な道路は融雪機能と除雪車がフル回転して通行を確保するし、
七ツ斑飛行場は冬でも離着陸可能だ。
無論不便な事は間違いない上に、やっぱり気を抜くと人を容易く死に至らしめるが、
それでも、冬はじっと身を縮めてやり過ごすだけの相手ではなくなった。

今でも冬場には夏に採掘した貴石を加工したり、秋に縒った毛糸で織物を織りはするが、
それはあくまでもそれを仕事とするからであって、他に出来る事が無いから、
などという消極的な理由ではない。

薄曇か、雪が降る日の続く空に、たまさかの晴れ間が見えれば、
鳴駒の湖にスケートをしに行く。
日を受けてキラキラと光る髪をなびかせて颯爽と滑る人々の姿は、
伝承に謳われる雪の精の再来と見まごうばかりだそうだ。
たまに見蕩れて怪我をする者がいるのはご愛嬌。

他の彩りを求めるならば、政庁に行けば良い。
政庁の中庭は温室になっていて、一年中美しく咲く花を眺める事が出来る。
……不純な話だが、政庁には美人の多いほねっこ男爵領の中でも、
粒揃いと評判の犬士の吏族さんが、日夜沢山の仕事をしておられる。
男性諸君にとっては良い目の保養になろう。
ただし、仕事の邪魔はしないこと。

かくして、ほねっこ男爵領の四季は巡っていく。
だが、どの季節にも他の季節にはない美しさがある。
そして、その季節と共に、この国で生きる人々の暮らしの中にも。
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