ハトホル女神
PCが予め知ってていい情報
ハトホル女神は、古代エジプト伝統神の内で、最も古くから崇拝されていた神の一柱。崇拝の証拠は初期王朝時代?のB.C.2700年頃まで溯れる。
初期王朝時代の第2王朝期?には、すでに崇拝が確立していたと思われる女神の、それ以前の起源は未だ充分には解明されていない。
基本的には生命力と豊饒とを司る天の牝牛であり、「神々と人間の母にして乳母」とされた。知られる限り古い時代から天の川と関連付けられていた。一方で、他の古い神格同様、時代と共に様々な変容が神格に見られる。
【参照イメージ】
(典型的なハトホル女神の図像,おそらくは、古代の壁画からおこされた線描と思われる,Wikimedia Commons)
追加情報
- 小辞典版推奨判定
- 「歴史+知性 目標値10〜12」「表現+知性 目標値12〜14」
- やや詳しい情報 ハトホル女神の主要聖域で、おそらく最も古い崇拝の中心と思われるデンデラでは、女神は生命力と豊饒とを司る「天の雌牛」とも呼ばれ、黄金の牝牛とイメージされた。デンデラのハトホル女神は、エドナのホルス神?と深い関係を持ち、その女性配偶神とされている。
- 小辞典版推奨判定
- 「魔術+知性 目標値10〜12」「歴史+知性 目標値12〜14」「表現+知性 目標値12〜14」
- やや詳しい情報 知られる限りの古い時代から、ハトホル女神は「メフルト女神(Mehurt, Mehet-Weret, Mehet-uret,Mehturt)」の異名でも呼ばれていた。古代エジプトの言語で「メフルト」は、「大いなる流れ」を意味した。
- 一方、古代エジプト人は天の川を、天の牝牛の乳房から流れ出したミルクの流れとみなし、ナイル川の天界の流れと信じていた。おそらくは、メフルト女神の異名にハトホル女神の古いルーツの痕跡が遺されているのだろう。
- 天の牝牛として天の川と関係付けられたハトホル女神は、地上に豊穣をもたらすナイル川の氾濫とも関係付けられた。
- 一方、「大いなる流れ」を意味するメフルト女神の異名から、ハトホル女神は新生を告知する女神ともみなされた。妊婦が赤子を出産するときの破水が、真近な誕生を告知する「大いなる流れ」とみなされたためだ。女神のこちらの性格が、豊穣を司る、とのイメージと相乗して、「神々と人間の母」としての神格に育っていったのだと思われる。
【参照イメージ】
(天の牝牛ハトホル像,カイロ考古博物館収蔵,Wikimedia Commons)
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- 「歴史+知性 目標値12〜14」「表現+知性 目標値14以上」
- 詳しい情報 古代エジプト時代、デンデラとエドナ?との間では、毎年年末に、デンデラのハトホル女神がエドナ?のホルス神を訪れ、「よき結合の儀式」を2週間に渡って執りおこなった。結合の儀式の後、女神デンデラの聖域に戻り、生誕殿?でイシス女神の生誕を祝う祭儀で儀式は締めくくられた。
- この儀式は、多数あるハトホル祭儀の内でも重要視されたもので、ハトホル女神が、王権神話との関連でラー神?の配偶神、あるいは母神とされた後も、引き続き執りおこなわれた。
- デンデラが位置したのは上エジプトの第6ノモスだったが、隣接した第7ノモスでは、ハトホル女神と同じくらい古い、もう1柱の牝牛の神格バアタ女神が祀られていた。
- バアタ女神は、あるいは、ルーツにおいてはハトホル女神と同じ神格から分化したのかもしれない、と言われるほど類縁関係が強い(2女神の類縁関係は、ほとんどあらゆる研究者が認めている)。しかし、ハトホル女神の崇拝が王権神話や世界創世神話との関わりを深めるに連れ、2女神の神格には差違が増えていったようだ。
- 小辞典版推奨判定
- 「表現+知性 目標値12〜14」
- 詳しい情報 ハトホル女神は、古代エジプト王朝?の王権と関る太陽神崇拝では、古くは、ラー神?の娘神と位置づけられ、マアト?とも関連付けられていた。王権神話が複雑化するにつれ、ラー神の妻にしてその母神とされ、ホルス神の妻ともされた。地域によっては、トト神?の配偶神とされたこともある。
- ヘルモポリス8柱神の世界創世神話では、ヌン神?の娘神とされた。
- さらに、イヒ神、ホルソムトゥス神?の母神ともされた。
- 新王国時代?には、ハトホル女神は「生誕殿の女主人」である、とされた。母親と新生児を守護する神格が発展し、新生児の一生を決定する「運命の女神」とする信仰も生まれた。この信仰では、女神の化身である7柱の女神(7人のハトホル)が出産の場に降臨するとされた。
- 小辞典版推奨判定
- 「魔術+知性 目標値12〜14」
- 詳しい情報 「『天の雌牛』であるハトホル女神は、ヌト神?の化身だ」とする神学が古代の伝統神官の間にあった。この説と同類の考え方は、ハトホル女神をテフヌト女神?と同一視した上で、ラー神?の娘の1柱ハトホル=トフェニス?とする「ラーの目?探索神話」にも覗える。(ハトホル=トフェニスは、ハトゥル=テフヌトの古典ギリシア語?による呼称)
- このラーの娘であるハトホル=トフェニスは、特に「恐怖の女主人」と呼ばれ、「遠方の女神?神話」でも語れた。こちらの神話では、ハトホル=トフェニスは、ラー神のウラエウス?とされた。
- 古代エジプト神話が複雑化するに連れ、ハトホル女神は、イシス女神、イシス=ソティス女神?、ヌト女神? 、テフヌト女神?、セフメト女神?、バステト女神、ウアジェト女神らのそれぞれと同一視されていった。ことに、元々ハトホル女神と共通する性格を多く持っていたバアタ女神は、中王国時代?の間に、ほぼ完璧に習合された。
- 最中的には、「すべての女神は、ハトホル女神の化身である」といった極端な神学すら唱えられるようになった。この内、崇拝中心地だったデンデラで唱えられた、ハトホル女神とイシス女神の一体説は重要だろう。(後世、イシス女神も「千の名を持つ女神」と呼ばれ、多くの女神と同一視されるようになっていった)
- 一方、新王国時代の「7人のハトホル」の崇拝も、まず間違いなくあらゆる女神をハトホル女神の化身とする信仰から生まれたものと思われる。おそらく、「7人のハトホル」とは、本来は下級神か守護精霊の類だったのだろう。
【参照イメージ】
(ハトホル女神の彫像,ルクソール博物館収蔵,Wikimedia Commons)
GM向け参考情報
アイディア・フック
「PCが予め知ってていい情報」に記したように、ハトホル女神崇拝の考古学的な物証が確認されているのは、現在のところ、初期王朝時代?の第2王朝期?で、B.C.2700年頃まで、とされているそうです。
しかし、一部には、先王朝時代?、「スコルピオン・キングの頃には、ハトホル女神がすでに崇拝されていた」との推測説もあるようです。こちらの説は、どちらかと言うとマイナーで根拠の薄い推測説とみなされるようですが、近年、ナブタ・プラヤの遺跡から、儀式的に葬られた牝牛の埋葬遺跡が発掘され、俄然活気づいている面もあるようです。
従来、古代エジプト文明の発祥は、ナイル川流域の新石器農耕文化中心に考えられ、メソポタミア地域との交流を介した刺激、なども論じられていたのですが。ナブタ・プラヤ遺跡の発見以来、「エジプト地域の遊牧民文化と、農耕民文化との複合から古代エジプト文明が生まれた(のではないか)」との意見が唱えられるようになってきています。
ナブタ・プラヤの牝牛祭儀とハトホル女神崇拝の間では、時代にもかなりの開きがあり、現状では「系譜関係がある」とまで唱えられているわけではありません。(例えば、バアタ女神との関係すら、まだ充分に把握整理されているわけではありません)
研究者は、慎重に遠まわしな表現で示唆的なことを述べる程度が現状のようですが。フィクション設定としては、「ハトホル女神崇拝のルーツかもしれない牝牛崇拝(それは、同時にバアタ女神のルーツでもあるでしょう)を持った遊牧民が、先王朝時代の上エジプト統一を主導した(かもしれない)」などは、古代史ロマンとしてはおもしろい話題と思われます。
シナリオでは、トンデモ系のNPCに力説させ、真相かどうかも定かではない手がかりに使ったりすると、楽に扱えそうな題材ではあります。
ハトホル女神の神格(再整理)
- 呼称
- 自称として 「生命の貴婦人」、「遠方にいるもの」
- 神の名をみだりに唱えぬための尊称 「デンデラの女神」、「神々と人間の母」、「神々と人間の乳母」、「天の雌牛」、「ラーの目?」、及び「遠方の女神?」神話と関連して「恐怖の女主人」。
- 尊称として テーベ?で「「西の山にいるハトホル」、「遠方の女神?神話」の主人公として「遠方の女神」、生誕殿?に降臨する愛の女神として「生誕殿の女主人」「「喜び、踊り、音楽、陶酔の女主人」。
- 異名 メフルト女神。
- 図像
- 頭部に1対の湾曲した角を持つ女性。向かい合った角は竪琴のような形状にも見える(古王国時代?〜中王国時代?初期から)。この角は「牡牛の角」である、と言われる。角の間に太陽円盤を抱く図像もしばしば描かれた。
- アンダー・バストまでを覆い、両乳房をバスト・アップ気味に晒す古代エジプトのロング・ドレスを纏った姿で描かれた例が多い。
- 時として、牛の耳を持つ女性としても描かれる。
- 肌は、赤味を帯びた黄褐色(オーキー)。これは通例男性に用いられる肌の色。あるいは、女性に特有の肌の色黄色で表現されたこともある。
- 黄金の雌牛(図像は黄色で表現)、雌の隼、雌のライオンの姿で描かれることもある。(これらはハトホル女神の化身であって、女神の神聖動物ではない)
- 持物
- アンク、メニト、ウアス、シストルム。
- 神聖動物
- 雌牛と雌猫。
- 聖域
- 主要な聖域はデンデラで、もっとも古い崇拝中心地の1つ。
- 他に、古代エジプトでは、サイス?、ヘルモポリス?、ヘラクレオポリス?、エスナ?、アフロディトポリス?、メンフィス?などで祀られた。
- ヌビアでも崇拝され、プント?でも祀られた。シナイ?やビュブロス?にも崇拝は広まり「トルコ石の女主人」として祀られた。エジプト側でも、セム系のバアーラト女神、ソマリア地方の女神など、異文化の女神をハトホル女神と同一視した。
- ヘレネス?(ポリス時代の古代ギリシア人)は、ハトホル女神をアフロディティ女神?と同一視した。
別称類
「ハトホル」は古典ギリシ語?による読み。
古代エジプトの言語では「ヘウト・ヘル」のように記し、「ハトゥル」のように発音されていたようだ。
現在知られる限りの古くから、崇拝が続いた限り「メフルト女神」の異名も用いられていたことが知られている。
キーワード:
参照:[バステト女神] [アブ・シンベル小神殿] [神話、伝説のキャラクター] [メニト] [イシス女神] [シストルム] [ナルメルの化粧パレット] [イヒ神] [フィラエ島のイシス神殿] [エル-クゥシヤ] [クヌム神] [アブ・シンベル] [コム・オンボの神殿遺跡] [デンデラ] [アイデア・フック] [エル-カブの遺跡] [ウアジェト女神] [バアタ女神] [アンク] [アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群] [イオ] [ウアス] [エルダー・ホルス]